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The Twinkle Days 04

第四話 朝の街には出会いがある



ユーノの朝の散歩。出会うのは誰でしょう?









 街に降りてみよう。ユーノが誰となくそう提案したのは、朝日を肴にして朝食後のコーヒーを傾けているときだった。

 レイジングハートはそれに特に反対することもなく、ただ《Yes Master》と答えその理由を問うこともなかった。

 レイジングハートは、しばらくの間現地民と顔を合わせる心配のないここに滞在し、時間を掛けて生活の拠点を作っていくき、そこから徐々に行動範囲を広げていくつもりだろうと思っていたが、どうやら、ユーノは人々の住む街の方に心配事があるらしい。

 それも致し方のないことかも知れない、とレイジングハートは彼に気づかれないようにそっとその球体の表面を明滅させた。

《なんだかんだいって人恋しいのですね》

 ユーノは幼い頃に両親を亡くし、スクライアに拾われた、いわゆる孤児だ。しかし、彼には物心つく頃には既に親代わの男がいて、彼がスクライアを去っていった後も族長を初めとしたスクライアの家族がいた。故に、彼には孤児にありがちな孤独感というものがあまりない。その代わり、一人になるということにもなれていないのだ。故に、誰もいない――野生生物と木々の間を駆け抜ける風の気配以外のものが存在しないここは、彼にとってはあまりにも静かすぎて、逆に不安をあおる場所なのだろう。

 それは良い傾向だとレイジングハートは思った。

《ともあれ、私たちがこの世界にとって異邦者であるということさえ忘れなければ、私はなにも反対しませんよ。少なくとも、この世界の公的機関のやっかいになりさえしなければ、自由にしていればいいと思います》

「それは――心配しなくてもいいけど――」

 レイジングハートの言葉に、ユーノは頬をかいて言葉を濁すしかできなかった。たとえ、こちらにそのつもりが無くても、自分たちがこれからしようとする事をこの世界の人々がどのようにとらえるかは予想のつかないことだった。

 ジュエルシードを回収するにしても、ある程度はこの世界の治安に悪影響を与える行為を行わなければならない可能性もまた否定できない。

《ですが、まあ、私たちがこの世界にいるということ自体がすでにこの国の法を破っていることにもなりますから、今更といえば今更ですがね》

 レイジングハートはまるで肩をすくめるように表面をチカチカと光らせた。

「そうだね、管理局の許可は取ってるといっても、この国の許可を取ってるわけじゃないから――できる限り目立たないようにしないといけないか……」

 これだから管理外世界は面倒だとユーノは思った。管理外世界であるということが理由で、これまで何度も管理局は介入操作に二の足・三の足・四の足を踏んできたのか分からない。
 その結果、世界の滅びをただ眺めるしかできなかった事例も両の手足の指を用いても数えられないほど生み出してきた。

《思えば、絶望的な状態ではありますね。ジュエルシード以外の適性要素の介入が無いことを祈るばかりです》

「まあ、そこまでいったら、流石の管理局も重い腰を上げるだろうけど――そうだね、無いことを祈ろう。君に祈る機能があること自体が驚きだけど」

《デバイスにも祈るべき神はいるべきです。我々にも知性があるのですから、その程度の権利は認められてしかるべきですよ》

「誰かに教えを説けるほどの信仰心はないっていってたのはどこの誰だっけ?」

《他人にくれてやる信仰心はありませんよ。私の祈りは私だけのものです。たとえマスターであっても、譲る余地はありません》

 デバイスであっても、知性を持つインテリジェントデバイスには信仰心が宿ることがある。そんな、ある意味革命的イグノーベルな論文が書けるような無駄な知識が増えた早朝だった。


************


 早朝から少し時間がたち、陽光も落ちついてきた頃には街中には一定の人の流れができあがっていた。
 急ぐ者、急がない者、散歩をする者から、しきりに時計を確認しながら人の流れに逆らう者まで、絵に描いたような雑踏が広げられていた。

『《面白味が皆無といえるほど平凡な風景ですね。これでは、わざわざ街に降りた意味がないのでは?》』

『別に僕たちは観光に来た訳じゃないんだから、面白さなんてどうでもいいでしょ』

 ユーノは、周りから与えられる少しだけ不躾な、物珍しそうな視線に少しだけ居心地が悪そうにしながら、レイジングハートの軽口に相づちを打った。

『《良くない傾向ですね。何事も楽しまなければ、人生の花はすぐに枯れてしまいますよ》』

『どこかで聞いた台詞だねそれ』

 おそらく、この世界――この国の人は自分のような異邦人が珍しいのだとユーノは徐々に理解できていた。
 街行く人々の大半の容姿は似通っていた。黒に近い髪にブラウンの瞳。
 少しくすんだ蜂蜜色の髪に緑色の瞳を持つ自分は、この中では明らかに異質だ。

『《この国は、他文化に対して閉鎖的なのでしょうか? ミッドチルダではこうはなりませんでしたね》』

『ミッドチルダは、戦争で居場所が消滅した人たちでできた国だからね。それは、仕方ないよ。あるものを全て受け入れていかないと、生きることさえできなかったんだから』

 そうして、ユーノは立ち止まり、面を上げた。

 空に広がるのは、涼やかな青。それを区切るようにそびえ立つ丘ほどの高層建造物。ミッドチルダもこの世界も変わらない。ただ、魔法がないだけで同じ世界がそこに広がっていた。

『《ですが……まあ、マスターが注目されている理由は、それだけではなさそうですがね》』

 そういうレイジングハートにユーノは首をかしげるが、その目で周りの人々、特に何気なしに視界に入ってくる、自分と同年代ぐらいの少年少女に目を向けてみた。

「なるほどね」

 ユーノは思わず声にしてつぶやいてしまった。
 ユーノの視線を感じた子供達は少し胡乱な表情をしながら、足早にそこ場から立ち去ってしまい、ユーノはその背中を追い、振り向いた。

 その後ろ姿は様々ある。統一的な服装をしている子達や、統一されたデザインの鞄を持つ子供達。そこから導き出される答えは、明確だった。

「学校か……」

 周りにいるのは、それぞれが似たような服装に身を包み、見上げるほど大きく感じる門の前で立ち止まる自分をどこか怪訝な目で眺める少年少女達。
 飾り気の無く統一された制服と鞄、靴に至るまでユーノにとっても懐かしいと思わせるものだった。

『《懐かしいですか?》』

 まるで遠くを眺めるように学舎を見上げるユーノの表情には何とも言えない寂寥感が込められているように思え、レイジングハートは思わず念話を使用して彼に話しかけていた。

『うーん。どうだろうね。僕も学校には行ったけど、ほとんど勉強しかしてなかったから』

 ユーノはレイジングハートのそれに対して、どうにも答えにくそうな様子だった。
 ユーノにとって、学校とはなじみ薄いものでは無かった。僅か一年前には、自分もそこにいたのは確かで、一族から離れて初めてなじみのない人々の間で生活していたものだった。
 学校という、ある意味閉鎖的で、どこか開放的な雰囲気の片鱗も味わうことができたし、一族にいては経験できないこともいくらかは経験することができた。

 しかし、それらに馴染むにはユーノは急ぎすぎた。
 なぜ、そんなに急いだのかは分からない。しかし、ユーノの心には、自分はここに長居していけないという不可思議な焦燥感があったのだ。

『《もう少し長居をしても良かったでしょうに、ずいぶん急いで卒業したものでしたね》』

『そうだね』

 ユーノは肩をすくめ、自分が経験した僅か二年間の時間を思い起こし、それをずいぶん懐かしくおもった。
 思えば、自分はなぜ学校に行こうと思ったのか。それすらも、今は思い出せそうにもなく、ユーノは人知れずに憂鬱なため息をつくしかなかった。

「Excuse me,May I help you ?」

 ふと、聞き慣れた言葉――というにはイントネーションが随分と古風に感じた言葉――にユーノは振り向いた。そこにはこの学校のものと思わしき制服を身にまとった金髪の少女が少しきついまなざしをユーノに向けていた。
 この世界にもミッドチルダの公用語に似た言葉があるのかと思い振り向いたユーノだったが、その少女の様子から見ると、どうやら彼女はまさに自分自身に話しかけていた様子だった。

「わっ! アリサちゃん、英語だ!」

 その後でそれを眺めるその友人と思わしき少女達が、羨望のまなざしのようなものをブロンドの髪の少女に向けていた。

「アリサちゃんはパーフェクト・バイリンガルだからね」

 その言葉にアリサと呼ばれた少女はすこし気をよくしたのか、言葉を続ける。

「Are't you a student of this school ? Do you have an acquaintance in this school ? Will you invite the acquaintance it?」

 この学校に知り合いでもいるのかと聞くアリサに、ユーノは少しポリポリと頬をかいた。自分が普段使い慣れているミッドチルダの公用語に近いと言っても、やはり異質だと思えた。
 ユーノとしてはミッドチルダの公用語で返事をしても良かったのだが、なるべく次元世界の情報を漏らさないほうがいいと判断をした。

「えーっと、この国の言葉でいいですよ?」

 そっちの方が話しやすいでしょ? とユーノは表情にそれをこめながら、ニッコリと笑った。

「すごい! 日本語喋ってる」

 邦語を話さない異邦人がそれほど珍しいのだろうか。それとも、この国の公用語を話す異邦人がそれほど珍しいのだろうか。
 確かに、この国の公用語は次元世界でも珍しいイントネーションではあるが、別に耳にしないわけでもなく、ユーノはいろいろな人間関係の中から、会話程度ならできるようになっていたのだ。

「それなら最初からいいなさいよ。かっこつけて馬鹿みたいじゃない」

「いや、それはそっちが勝手に……」

「なに?」

「いえ、なんでも無いです」

 随分高圧的だとユーノは感じた。しかし、話しにくい雰囲気の少女ではないとも思え、ユーノは少し不思議に思った。

「まあ、いいわ。で? ここに何かよう? ここの生徒じゃ……ないわよね」

「あー、うん。最近こっちに来たばかりだから、学校には通ってないんだ」

「そうなんだ。どこから来たの?」

 いつの間にか栗色の髪の少女も会話に参加し始めた。

「えーっと、グリアバラスっていうところから」

 グリアバラスはユーノがジュエルシードを発見した遺跡のある地方の名前であるので、ユーノは嘘をついているわけではない。

「グリアバラス? 聞いたことないなぁ」

 いつの間にか、藍色の長い髪の少女も話しに加わっていた。どことなく図書館の司書を思わせる物腰の柔らかそうな雰囲気を振りまき、その表情は遺跡の天井から見上げる満月のように思えて、ユーノは柄にもなく胸を高鳴らせてしまった。

『《マスター、この栗髪のお嬢さんは……》』

 しかし、レイジングハートにとって興味深いと判断したのは、会話に入りながらも、時折少し周りをきょろきょろとしながら怪訝そうに小首をかしげる栗色のお下げの少女だったようだ。

『うん、なんだかすごい魔力を持ってるみたい』

 ユーノもすでにそれには気がついていた。このなのはと呼ばれた少女には自分など足下にも及ばないほどの魔力を持ち合わせている。
 それこそ、ここが管理外世界で無ければ、管理局が全力でスカウトに乗り出しそうなレベルで。
 彼女が時折周りを伺うような仕草をしているのも、おそらく彼女は感じているのだろう。ユーノがレイジングハートとひそかに行っている念話が織りなす、さざ波にも満たないような僅かな魔力波動を。

 この魔法技術が全く発展していない世界で、ユーノのような確立された教育や訓練を受けていないにもかかわらず、それほどの感受性を持つ彼女は魔力だけではない、それを扱う才能にも恵まれている。

 確かに興味深いとユーノも思った。

『《下手をすれば、それに反応してジュエルシードモンスターが……》』

『可能性はあるね。この世界の人たちはほとんどリンカーコアを持ってないみたいだけど、この子みたいな人もいるみたいだ』

『《一種の突然変異か、隔世遺伝でしょうか? 祖先に魔導師がいたということも?》』

『理由はどうでもいいよ。これからは少し気をつけなくちゃいけないかも知れないね』

『《とりあえず、このお嬢さんの魔力パターンを登録しました。これほどの魔力を垂れ流しにしているのですから、どこにいてもすぐに分かりますよ》』

『ありがとう、レイジングハート。もしもが起きなければいいんだけどね』

『《それは、望み薄かも知れません。なにせ、私たちも彼女に引き寄せられたのです。この出会いはおそらく偶然ではないでしょう》』

 ユーノはレイジングハートと念話をしながら、口では、割と終始和やかに会話をしていた。

(この子の側ではあんまり念話をしない方が良さそうだね)

 できれば、ジュエルシードが誘蛾灯に飛び込む羽虫のように、この子に引き寄せられないことを祈るばかりだ。

 そして、いつしか時間は流れ、学校と思われる建物から響いてくるベルの音に、三人の少女達は驚いた様子で面を上げた。

「もうこんな時間だったんだ。結構話しちゃったね」

 藍色の長い髪の少女――すずかは、すこし焦ったような口調で手首の時計を確認していた。

「光陰矢のごとしだわね。じゃあ、ユーノ……だったっけ? あたし達はそろそろ行くわ」

「うん、勉強がんばってね」

 ユーノは笑顔で三人を見送った。

「また、お話ししようね。その時は街を案内して上げるよ」

 と、栗色の髪の少女――なのはは手を振って校舎に向かっていく。

「ありがとう、高町さん。その時はよろしく」

 そういって背中を向けて校舎へと入っていく三人を姿が見えなくなるまで見送り、ユーノは少しだけ視線を上げた。校舎の窓から見える子供達の姿。皆、お行儀よく席につきつつもその周りの子供達と笑顔を交わしながら会話をしているようだった。

 思えば自分はどれほどぶりに同年代の子供達と会話を交わしたのだろうかとユーノは思う。それも、先ほどまでのようにまるで普通の子供のようににこやかに、和やかに、何の腹芸もなく素直な言葉を交わしたことが果たして今までの自分にあったのだろうかとユーノは思った。

 思い出されるのは、かつて抱いていた孤独感を自らのものとして身に飲み込むきっかけを与えてくれた男性ただ一人だけだった。

 レイジングハートという家族を自身に与えてくれた、ベルディナと名乗った彼は、今頃どこで何をしているのだろうかとユーノは青空に向かって思いをはせた。

『《寂しいですか? ユーノ》』

 そんなユーノの心情を察したのか、レイジングハートがそっと言葉を投げかけた。

『そうでもない……かな? 僕でも友達が作れるかも知れないって分かったし……今は君がいるからね、レイジングハート』

 レイジングハートは無言で紅い光を明滅させた。ユーノにはそれが、まるで照れ隠しの仕草のように思えて、口元に小さな笑みを浮かべた。

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まとめ【The Twinkle Days 04】

第四話 朝の街には出会いがあるユーノの朝の散歩。出会うのは誰でしょう?

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プロフィール

柳沢紀雪

Author:柳沢紀雪
日本在住の人類。趣味は執筆(まあ当然)、天文学、物理学、機械工学、ミリタリー。執筆の動機は理工の人間としてSF小説を書きたいという動機から。しかし、蓋を開けてみればファンタジー小説が多いというこの事実。いっそのこと、魔術を魔法技術として理論立てた上でファンタジーをSFにしてしまおうかと画策しているこの頃。
「執筆は趣味ではなくライフワークである。」と言える日が来るようになりたい。

様々な場所を借りて小説を投稿してきた根無し草ですが、そろそろ自分のサイトも持ちたいと思ってここを開設しました。

更新は不定期になりがちですが、末永くおつきあいいただければ幸いです。

なお、このブログはリンクフリーです。

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